温州ミカンの生産現場データを使ったコホート解析

Author

Fuki Fujiwara

Researcher
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Plant Biotechnologyに、私たちが行った温州ミカンのコホート解析に関する論文が掲載されました。実験データではなく、生産現場そのものを対象にした大規模なデータ解析です。生産現場のリアルなデータ、いわゆる“リアルワールドデータ”が、農業の研究で重視・活用されるきっかけになれば良いなという想いでこの論文を発表しました。

この研究では、日本の各ミカン産地の生産者の果樹園から数多くのサンプルを収集することで、栽培方法と農業生態系の関係をリアルワールドデータに基づいて調査しました。リアルワールドデータを活用する上で障壁となるのことの一つは、気候や土壌タイプなどの条件が地域ごとに大きく異なり、栽培方法を単純に比較できないことです。そこで、この研究では、医療分野のコホート研究で使われている非実験データ向けの統計手法を応用しました。実はこの発想は、ひょんなきっかけで参加した計量生物学会で、全く馴染みのない医療分野の研究者の発表を聞いたこともきっかけになっています。

また、データには私たちの共同研究チームが強みとするマルチオミクス解析技術も使われています。さまざまな分析技術と機器が必要となるため、私たちのラボだけではなし得ない学際的な解析アプローチであり、まさに最先端の研究技術の結晶です。このようなデータを分析して、筆を取ることができたのは、非常にありがたく、光栄なことだと思っています。

データ分析の結果を見て私が一番興味をそそられたのは、有機栽培だからといって、必ずしも土壌の炭素含量が高まるわけではなかったことです。土壌炭素の増加と関連していたのは、化学肥料や有機質肥料といった肥料の種類ではなく、それらの投入量を減らすことでした。特別栽培と呼ばれる化学肥料の投入を半減させる方法や、肥料を投入しない自然栽培でも炭素含量の増加が見られたこともそれを表しています。おそらく窒素のような養分を多く投入すれば、それが化学肥料であれ、有機質肥料や堆肥であれ、微生物の活性を高めて炭素の消費も高めるからではないかと考察をしています。果樹園という環境ならではの現象なのかもしれませんが、栽培方法を変えることで、耕作地における炭素サイクルの早い環境から、温帯以北の森林のようなサイクルの安定した環境へのシフトが起こるのではないかと予想しています。

またそもそも驚いたことは、現場の栽培方法が想像以上に多様であったことです。この研究では農薬や肥料の種類や使用量に基づいて区分をしましたが、少数サンプルの区分も含めれば実に19種類にも上りました。これはリアルワールドデータであったからこそ見えたことだと私は考えています。有機や慣行といった二項対立ではなく、もっと複雑で難しいグラデーションの中でより良い栽培技術を探っているのが現場の生産者です。そんな取り組みを研究者が一丸となってサポートがよりできるようになれば良いなという気持ちを抱いています。

栽培方法の比較研究に留まらず、さまざまな農業・生態系研究の基盤となるように、リアルワールドデータを活用した研究を今後も進めていきます。興味を持っていただいた方は、ぜひプレスリリースや論文もご覧になっていただけると幸いです。

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