ワンヘルスの「問い」をつくる2日間

Author

Yasunori Ichihashi

Team Director
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先日、私たちは研究交流合宿を行いました。参加したのは、私たちのチームメンバーに加え、川上先生のチームメンバー、そして村瀬先生です。専門分野も研究アプローチも異なるメンバーが一堂に会し、非常に濃密で有意義な2日間を過ごすことができました。

初日は、それぞれの研究発表からスタートしました。分野は異なれど、根底にある問題意識や「何を理解したいのか」という問いには共通点も多く、議論は予想以上に深まりました。夕食後も自然と発表と議論が続き、気づけば夜遅くまで。さらにお酒も入り、研究の話から少し視野を広げた話題まで、肩肘張らない率直な対話が生まれました。異分野だからこそ説明が必要になり、その過程で自分自身の研究を見つめ直す時間にもなっていたように思います。

2日目には、「ワンヘルスにおける革新的な問いを探す」ことを目的としたブレインストーミングを実施しました。個々に出されたアイディアを持ち寄り、川喜田二郎のKJ法を用いて整理・構造化していく中で、議論は次第に抽象度を上げながらも、確かな手応えを伴って進んでいきました。その結果として可視化されたのが、環境―食―身体―精神―社会―幸福の連続性を軸としたワンヘルスの構造と、そこから立ち上がる「健康な生態系に住む生物は健康なのか?」「最適なコミュニティの形態があるのか?」といった革新的な問いです。

アイデアを出し合い、アイデア同士のつながりを見つけて、それらを組み替えながら思考を深めていく時間は、決して楽なものではありませんでしたが、その分、全員が「脳をフル回転させた」感覚を共有していました。理解し、予測し、制御するとはどういうことなのか。微生物、デジタルツイン、ビレッジというキーワードが、単なる言葉ではなく、研究の枠組みとして結びついていくプロセスを、全員で体験できたように思います。

振り返ってみると、この合宿は、研究成果を持ち帰るだけの場ではなく、考え方そのものを更新する時間だったのかもしれません。異なる専門性をもつ研究者が、同じ空間で、同じ問いに向き合い、徹底的に考える。その積み重ねが、新しい研究の芽や、次の一歩につながっていくのだと実感しました。

とにかく、よく考え、よく議論し、そしてよく交流した2日間でした。この時間から生まれた問いや構造を、今後の研究の中でどのように育てていけるのか。合宿は終わりましたが、ここからが本当のスタートだと感じています。


本ブレインストーミングでは、「ワンヘルスのコアとなる問い」を見出すことを目的に、研究者15名が集い、2時間にわたる議論とKJ法による構造化を行った。その結果、
ワンヘルスを単なる人・動物・環境の健康の総和としてではなく、環境―食―身体―精神―社会―幸福の連続性として捉える視点が、本取り組みの中心的な枠組みとして共有された。

この連続性の起点には生態系の健康があり、そこから生み出される物質や情報が、食を介して身体に取り込まれ、メンタルヘルスや社会的関係性、さらには幸福のあり方へと連鎖的に影響する。ここで提示された革新的な問いの一つが、「健康な生態系に住む生物は健康なのか?」である。この問いは、生態系と個体の健康を直線的に結びつけるのではなく、その間に存在する媒介要因や条件を科学的に捉え直す必要性を示している。

この連続性を実体として理解する上で重要な鍵となるのが、微生物が異なる階層をつなぐ存在であるという視点である。微生物は、土壌や環境と食、腸内環境、免疫、メンタルヘルスといった異なる階層を横断し、物質・機能・情報の循環を媒介する。すなわち微生物は、細胞―個体―集団―生態系という階層構造を貫く「共通言語」として位置づけられる。

こうした複雑で多階層な対象に対し、私たちは理解・予測・制御という科学的アプローチを段階的に適用する。理解においては普遍性に価値を置き、異なる環境に共通する構造や法則を抽出する。予測においては個別性に価値を置き、リアルワールドデータから将来の状態やリスクを見通す。そして制御では、理解と予測の知見を踏まえ、どこまで、何を介入すべきかを問う。

この予測と制御を統合する思考装置として位置づけられるのが、ワンヘルス・デジタルツインである。デジタルツインは、生態系から個人、社会に至るまでの階層をデジタル空間上で接続し、相互作用や循環をモデル化することで、将来予測や介入シナリオの検討を可能にする。一方で、指標の最適化が目的化してしまうリスクにも留意し、デジタルツインで「何ができ、何ができないのか」を常に問い直す姿勢が求められる。

さらに、これらのモデルや仮説を現実世界で検証・更新する場として構想されているのがワンヘルスビレッジである。ここでは、「最適なコミュニティの形態があるのか?」という革新的な問いが中心に据えられる。ビレッジは単なる実証フィールドではなく、住民一人ひとりが研究者として参加し、自らの健康や行動、環境との関係を観測する参加型・レジデント型研究アプローチの場である。

すなわち本構想は、微生物を階層をつなぐ共通言語とし、デジタルツインを階層を横断する思考装置とし、ワンヘルスビレッジを現実世界における実験場とする三位一体の研究フレームワークとして、ワンヘルスを理念から実装へと導く試みである。これは、ワンヘルスを「定義し、理解し、予測し、制御する」ための、これまでにない統合的アプローチを提示している。

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