光のほうへ歩み続ける — F-REI × 理研CSRS キックオフを終えて
F-REIと理研CSRSのキックオフを無事に開催することができました。
当日は、光が多く差し込む明るい会議室で会を開きました。ガラス張りの廊下に面した壁は開放することができ、空間全体をオープンな雰囲気に設定しました。これまで何度も会話を重ねてきた方々が、少しずつその場に集まってきます。軽やかなBGMが流れるなか、穏やかな空気に包まれて会議が始まりました。
会議の多くの時間は、小グループでの対話に充てました。会場のあちらこちらから議論の声が聞こえ、時には笑い声も混じります。互いに顔を向け、言葉を交わしながら、ゆっくりと関係が立ち上がっていくような時間でした。
ここに至るまで、何度の対面会合を重ね、どれほどのオンライン会議を行ったのか、正確には思い出せません。それぞれが多忙な立場にありながら時間を調整し、議論を重ね、ときには意見がすれ違いながらも、少しずつ形を整えてきました。
異なる文化や組織風土のなかで、思うように意思疎通が進まないこともありました。遠隔でメンバーをマネジメントする難しさも強く感じました。それぞれの立場には事情があり、守るべき責任や優先事項があります。そのような状況のなかで、互いの目指す方向性を内包できる共通のコンセプトを模索し続けました。
その一つが、「日本を守る」という視点でした。日本の次世代により良い社会を残すこと、そして創造的復興の先に明るい未来を描くことです。立場や役割が異なっても、その大きな目的のもとであれば、相乗効果を発揮できるのではないかと考えました。
準備の過程では、何度も現実の厳しさに直面しました。目の前の課題に追われ、遠くに見えていた希望の光が消えかけるように感じたこともあります。それでも、この先にあるはずの光を信じて行動を続けるしかありませんでした。
キックオフ当日は、多くの方々にご参加いただき、盛会のうちに終えることができました。しかし同時に、安堵とともに新たな不安も生まれました。期待が高まった分、この状況で本当に連携を加速できるのか、どこまで進めば波に乗ったと言えるのかと自問しています。
それでも、多くの希望と嬉しい発見がありました。今回培った知恵とチームワークがあれば、思い描いた通りの形ではないかもしれませんが、着実に前進できるのではないかと感じています。今回の取り組みは、ワンヘルスの実現に向けた確かな一歩になったと考えています。
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これまで私は、仕事とプライベートを比較的はっきりと分けてきました。研究は研究、家庭は家庭というように、同じ自分でありながら別の人格を使い分けている感覚があったように思います。
しかし、研究を次世代のために役立つものにしたいと真剣に考えるようになってから、その境界が少しずつ重なり始めました。会議の最中に、ふと子どもたちの顔を思い出しました。この子たちが平和で豊かに暮らせる未来に、自分の研究が直結するのであれば、今持っている能力をすべて投じてみようではないかという思いが湧いてきました。
その結果がどうなるかは分かりません。それでも、そのような気持ちで取り組める仕事がしたいと思いました。それが自分の幸せであり、家族の幸せであり、日本や地球の幸せにつながるのだと考えると、研究という営みがこれほどやりがいのあるものになるのかと驚きました。
その瞬間、身体が正直に反応しました。涙が出て、しばらく声が出ませんでした。不思議と恥ずかしさはなく、これまで知らなかった自分に出会ったような感覚がありました。戸惑いもありましたが、同時に爽快さも感じました。これまでの価値観の一部が崩れ落ち、そこから新しい芽が顔を出しているように感じられました。
今年の自分の言葉として掲げている「自然法爾」という考えがあります。無理に物事を操作するのではなく、起こるべき変化の流れを受け止めるという姿勢です。その変化がどこへ向かうのかを、わくわくしながら見つめている自分がいました。
翌日、なぜか声が出なくなりました。喉風邪だったのかもしれません。しかし、主体と客体が重なるような体験の延長にある出来事のようにも感じました。考えている私と、身体として存在している私が一致したような、不思議な感覚でした。あまり特別な意味づけをするつもりはありませんが、世界との距離感が少し変わると、人は心地よさを感じるのかもしれません。
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また別の日、出張からの帰りの新幹線の中で、ラボメンバーとゆっくり話をする機会がありました。キックオフで感じたことを共有しながら、それでも自分たちが思い描く明るい未来に向かって、まっすぐ進んでいきたいという気持ちを伝えてくれました。
その言葉は、とてもまっすぐで素直で、心の奥から自然に出てきた声のように感じられました。
同時に、自分はこれまでかなり観念的で、思考に依存した考え方に偏っていたのではないかとも感じました。私たちはもともと全く異なる時間と空間のなかで生まれた生命です。そして同じ時空間のなかで出会う時間は、長い歴史のなかではほんの一瞬に過ぎません。
その限られた時間のなかで、私たちは言葉という手段を用いて互いに理解し合おうとします。しかし実際には、そのたびに大きな壁を感じることもあります。
一方で、私たちの身体を構成している元素に目を向けると、少し違った見方もできるように思いました。同じ空間で過ごし、同じ食べ物や飲み物を共有することで、元素レベルでは多くのものを共有しています。それは言語を超えた大きなコミュニケーションの一形態なのかもしれません。
歴史を振り返ってみても、多くの出来事は、人々が膝を突き合わせ、時間や生活を共有するなかで生まれてきました。そこから新しい化学反応のような変化が生じ、創発的に社会の方向が動いてきたのではないかと思います。
そう考えると、言葉だけによるコミュニケーションではなく、時間や経験を共有することそのものがとても重要なのだと感じました。体感を通して信じるものを素直に追いかけていくことで、まだ言語化できていない重要なヒントが見えてくるのかもしれません。
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この記事を書いているのは、また別の出張からの帰り道です。
ポケットに入れた指先は温かく、右頬に当たる風は冷たく感じます。近くで風が滞留して生じる音と、遠くの建物から響く低い音が同時に耳に届きます。それぞれ異なる細胞が、異なる方法でこの世界を感知しているのではないかと想像しました。
目の前に広がる風景も、一枚の映像として見えていますが、実際には無数の視覚細胞がそれぞれ異なる角度の光を捉えています。それらの情報を脳が統合し、「今ここにいる」という感覚をつくり上げているのでしょう。
私という存在は、多くの細胞から構成されています。それぞれの細胞は異なる方法で世界を感じていますが、個体としては一つのまとまりのある世界観を形成しようとしています。その構造は、ホロビオントや生態系の階層構造とも重なって見えました。
個体から集団へ、集団から生態系へと視点を移していくと、階層を越えてつながっている感覚が生まれます。科学という拡張された認知の手段を用いれば、私たちは小さな階層から大きな階層までを行き来することができます。そしてそれらを統合する概念の一つが、ワンヘルスなのだと思います。
F-REIと理研CSRSの連携は、その階層をまたぐ挑戦です。研究者個人の思いから組織、地域、国家、そして地球規模へと視野を広げる試みでもあります。
何が起こるかは分かりません。思い描いた通りの形にはならないかもしれません。それでも今回のキックオフは、未来社会に向けた確かな一歩でした。
これからどのような道が開けていくのかはまだ分かりません。それでも今回の出会いと対話のなかで生まれた感覚を信じながら、私たちは光のほうへ歩み続けていきたいと思います。
キックオフの紹介記事がCSRSのwebsiteで公開されました